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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)9598号 判決 1973年5月15日

原告 神谷昭雄

<ほか三名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 中津靖夫

被告 アサヒ交通有限会社

右代表者代表取締役 田中忠義

右訴訟代理人弁護士 笠原慎一

主文

原告らの請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一、当事者双方の申立て

1  原告らの求める裁判

「原告らが被告の従業員たる地位にあることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

≪以下事実省略≫

理由

一  原告神谷および兼岡と被告間の雇用関係の存否について

1  ≪証拠省略≫を総合すると、被告は職制上営業部、経理部および整備部を置いて業務を執行しているが、被告の取締役は被告の出資者たる社員のなかから選任され、かつ、その職に就任した者は、いわゆる業務担当取締役として右各部の長たる職位に就いて事務を処理し、報酬として、取締役たる役員報酬のほかに、その担当業務に係る労務の給付に対して月額給与の支払いを受け、取締役の解任、任期満了などの事由により終任したときは、その業務担当を解かれることとしていたことが認められるから、被告の取締役が業務担当取締役に就任したときは、これによって被告とその取締役との間において取締役の在任期間を存続期間とし、その担当業務に係る労務を給付することを目的とする雇用契約が成立するものと解すべきである。なお、右認定事実によれば、被告の業務担当取締役に就任した者は、被告の出資者たる社員の地位、被告の取締役たる役員の地位および被告の職制上部長たる従業員の地位を三つながら併有するものといわなければならない。

ところで、≪証拠省略≫によれば、原告神谷が昭和三九年五月二八日に被告の取締役に選ばれて経理部長の職に就き、原告兼岡が昭和四一年五月三〇日に被告の取締役に選ばれて整備部長の職に就いてそれぞれ役員報酬月額二万円のほかにその部長職のための労務の給付に対する報酬として月額六万円の給与を受けていた(なお出資者たる社員に対する利益金配当としてその出資口数に応じ原告神谷が四万五〇〇〇円、同兼岡が一万五〇〇〇円の各月額支給を受けていた)ことを認めることができる。

しかし、≪証拠省略≫をあわせると、原告兼岡は、被告の有限会社設立時から昭和三九年五月まで約一〇年間被告の業務担当取締役に就任して営業部長の職にあったが、同年五月二八日の役員改選に際し取締役の選に洩れて業務担当取締役による首脳部陣容が一部分入れ替ったので、いらい被告会社のいわゆるフリー(取締役の選任に洩れたときは、その担当部長職をも辞さなければならないが、しかし、被告の雇用運転手となってタクシー運転に従事するなどして引き続き被告会社においてなんらかの勤務に服する拘束があるわけではない。)になって、約二年間被告の雇用運転手となってタクシー運転業務に従事したことが認められるけれども、右の営業部長職と雇用運転手職とではそれぞれ別個の雇用契約にぞくすることが前記認定事実により明らかであるから、原告兼岡の場合において、運転手職をはさんで前後の営業部長職と整備部長職もまたその雇用契約上同一性のないものというべきである。

そうすると、原告神谷は昭和三九年五月二八日に経理部長として、原告兼岡は昭和四一年五月三〇日に整備部長としてそれぞれ被告の業務担当取締役に就任したときにおいて、その取締役の在任期間を存続期間とし、その部長職のための労務の給付を目的とする雇用契約が被告との間に成立し、これによって被告の従業員たる地位に就いたといわなければならない。

2  そこで、原告神谷および兼岡と被告間の各雇用関係が終了したと主張する被告の抗弁について判断する。

被告は原告神谷および兼岡が昭和四一年八月五日の臨時社員総会において取締役の選任に洩れたことによりその取締役を退任したと主張し、≪証拠判断省略≫被告の右主張は採用しがたい。

しかし、原告兼岡が昭和四一年五月三〇日に取締役に選任されたことはすでにみたとおりであり、原告神谷が同日に取締役に再選されたことは≪証拠省略≫により明らかであるところ、≪証拠省略≫によると、被告は、昭和三三年五月の定期社員総会において定款の規定上取締役の任期一年であったのを二年に変更したことが認められるから、特別の事情のないかぎり、原告神谷および兼岡は昭和四三年五月をもって任期満了によりその取締役を終任するにいたるべきであるが、同原告両名が右任期の取締役に引き続き次期の取締役に再選されたことを認めるに足りる証拠はないし、≪証拠省略≫によると、昭和四三年一二月二〇日に被告の取締役兼代表取締役末広直治および取締役田中忠義の各職務代行者である弁護士玉重一之および同太田雍也のもとにおいて臨時社員総会が開かれて末広直治および田中忠義が取締役に選任されたことを認めることができる。したがって、原告神谷および兼岡はおそくとも昭和四三年一二月二〇日にその取締役を終任したとみるべきであるから、これによって原告神谷が被告の経理部長職にある雇用関係ならびに原告兼岡が被告の整備部長職にある雇用関係はいずれも終了したといわなければならない。被告の抗弁は理由がある。

二  原告小林および星と被告間の雇用関係の存否について

≪証拠省略≫をあわせると、原告小林および星は、被告の出資者たる社員であるが、昭和四一年六月当時においてそれぞれ被告の営業部事故係および整備部鈑金係の業務に従事して月額給与六万円の支給をえていたほか、社員に対する利益金配当として月額各一万五〇〇〇円の支払いを受けていたことが認められるから、同原告両名は、被告の社員たる地位のほかに、当時において被告との間に雇用契約にもとづきその従業員たる地位にあった(その雇用契約の成立がいつであるかはしばらく措く。)というべきである。

ところが、≪証拠省略≫によると、被告は、昭和四一年八月五日頃実力本位の能力主義を標榜して、営業部長であった田中忠義が留任したほか、社長であった柏原芳雄、経理部長であった原告神谷および整備部長であった原告兼岡が退陣し、あらたに社長に末広直治が、経理部長に並木弘がその職に就いて首脳部の陣容を一新し、下部機構においては、営業部事故係および整備部鈑金係を廃してそれぞれその業務に従事していた原告小林および星が被告の従業員たる地位から退き、従前被告の雇用運転手であった矢島作治、藪井敏一、二宮誠一および佐藤和穂があらたに登用されてそれぞれ営業、総務、渉外および工場の各職務を担当する従業員となったのであるが、右登用に際し、原告小林および星はそれぞれ事故係および鈑金係の仕事を「やめてくれ」といわれてその交替をよぎなくされたいきさつを認めることができるから、右交替要求は被告の同原告両名に対する解雇の予告であると解するのを相当とし、したがって、特段の事情のないかぎり、同原告両名と被告間の前記雇用関係は右解雇予告により同年九月五日頃に終了したといわなければならない。被告の抗弁は理由がある。

三  以上述べたところにより、原告らはいずれも被告との雇用関係が終了したことによってその従業員たる地位を喪失したといわなければならない。

よって、原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川幹郎 裁判官 仙田富士夫 裁判官本田恭一は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 中川幹郎)

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